口は「総合力」。自分の歯を残すことが大切な理由とは?
執筆:峰 啓介
- 峰歯科のこだわり
先日、「豊かな人生のために必要な口の総合力」という興味深い記事を読みました。
口の機能は、歯だけで決まるものではありません。舌があり、頬があり、それを動かす筋肉があり、唾液が出る。それらが協力して、食べ物を噛み、まとめ、飲み込んでいます。
確かにその通りで、口は総合力です。ただ、歯科医師として一つ付け加えるなら、それでも、自分の歯に勝るものはない。私はそう考えています。
歯が少なくても食べられる人はいます
記事では、きんさん・ぎんさんの話が紹介されていました。晩年には歯がごくわずかだったにもかかわらず、舌や頬などの機能を上手に使って、好きなものを食べていたそうです。実際、歯の本数だけで「食べられる・食べられない」がすべて決まるわけではありません。歯を失っても、舌や頬、顎を動かす筋肉、飲み込む力などがしっかりしていれば、ある程度補うことができます。
必要であれば、入れ歯やブリッジ、インプラントといった方法もあります。ですから、「歯を失ったら、もう何も食べられない」と悲観する必要はありません。しかし、「歯がなくても何とかなる」ことと、「歯がなくても同じ」ことは全く違います。
やはり天然の歯は大切です
自分の歯で噛めるのであれば、それに越したことはありません。天然の歯には、非常によくできた構造があります。歯の根の周囲には歯根膜があり、噛んだときの力や感覚を受け取っています。そして何より、自分の歯は基本的に特別なメンテナンスや交換を必要とせず、きちんと管理すれば長く使うことができます。
人工物で補う治療は非常に有用ですが、天然歯を完全に再現できるわけではありません。
だから私は、まず今ある歯をできるだけ残すことを大切にしています。歯の価値については、歯の価値はいくら?人生100年時代に考える「歯という資産」でもお話ししています。
「1本でも歯を残したい」なら、ブリッジは慎重に
歯を失ったときの治療方法の一つに、ブリッジがあります。失った歯の両隣を支えにして、橋をかけるように人工の歯を入れる方法です。固定式なので使いやすく、非常に良い治療方法になる場合もあります。ただし、多くの場合、支えにする両隣の歯を削る必要があります。場合によっては、何も治療されていない健康な歯を大きく削ることもあります。
「できるだけ自分の歯を残したい」ということを最優先に考えるのであれば、欠損したからすぐブリッジ、とは私は考えません。その歯を本当に補う必要があるのか。補うのであれば、どの方法が周囲の歯にとって最も良いのか。そこまで考えて選択する必要があります。
インプラントも「歯がないから必ず入れる」ではありません
インプラントは、周囲の歯を削らずに失った歯を補える非常に優れた方法です。
しかし、インプラントも天然の歯ではありません。外科処置が必要ですし、治療後もメンテナンスが必要です。そして何より、歯がない場所があっても、本人が特に困っていないことがあります。
きちんと食事ができる。噛み合わせにも大きな問題がない。日常生活で不自由していない。そういう方に、「歯がない場所があるから、とにかくインプラントを入れましょう」と考える必要はないと私は思っています。何かを補う治療には、必ずメリットとともにリスクがあります。治療しないという選択肢も含めて考えるべきです。
私が一番大切にしているのは「今あるものを守ること」です
歯を失っても、さまざまな治療方法があります。ブリッジもあります。入れ歯もあります。インプラントもあります。そして、口全体の機能がしっかりしていれば、歯が少なくても食事を楽しめることがあります。だからこそ、歯を失ったあとも悲観する必要はありません。
ただ私は、失ってから何で補うかを考えるより、まず今ある歯をどう残すかに全力で取り組む。これが一番大切だと考えています。
虫歯になったら、できるだけ健康な歯質を残して治療する。歯周病があれば、歯を失わないように管理する。そして治療が終わったあとも、定期的なメンテナンスを続ける。安易に歯を削らない。安易に歯を抜かない。そして、歯を失った場所についても、安易に何かで補わない。
自分の歯を守るためにできることは、8020運動を達成するには?でも詳しくご紹介しています。
当院の症例から:天然の歯を抜かずに、今あるものを活かした例
当院で、上下の前歯のでこぼこを矯正歯科治療で改善した症例があります。
この患者さんは、被せ物などの人工の歯がすでに多く入っていて、インプラントも数本入っていました。前歯が並ぶためのスペースが足りない状態でしたが、通常考える「天然の歯を抜く」「歯列を拡大する」という方法ではなく、すでに入っていた人工物の幅を調整してスペースを作りました。また、動かないというインプラントの特徴を、治療計画の中で活用しました。
お口の中の条件は、年齢、残っている歯、被せ物、ブリッジ、インプラントなど、人によって大きく異なります。その条件を一つひとつ確認し、「今あるものをどう活かすか」から考える。これは矯正歯科治療でも、歯を失った場合の治療でも変わらない私の考え方です。症例の詳細はでこぼこの症例 58歳男性のページをご覧ください。
口は総合力。だからこそ、今ある力を大切に
口は、歯だけで働いているわけではありません。歯、歯ぐき、舌、頬、筋肉、唾液、噛む力、飲み込む力。それらすべてが合わさって、私たちは毎日の食事を楽しんでいます。
「口は総合力」という考え方には、私も賛成です。だからこそ、何かが失われたらすぐ人工物で補えばいい、とは考えません。今ある歯を残す。今ある機能を守る。そして、必要なときだけ必要な治療をする。それが、私の治療方針です。
できるだけ自分の歯で、できるだけ長く食事を楽しむ。そのためのお手伝いをするのが、歯科医院の大切な役割だと思っています。伊賀市の歯医者、峰歯科・矯正歯科クリニックでは、歯を失ったときの治療方法に迷うときや、今ある歯を残せるか相談したいときにも、一人ひとりの状況に合わせてご説明します。お気軽にご相談ください。