5万9千年前から、人は歯の痛みと戦ってきた
執筆:峰 啓介
- 院長ブログ
皆さまこんにちは。
三重県伊賀市にある、歯医者、峰歯科・矯正歯科クリニックの院長KSKこと峰啓介です。
先日、歯科医師として思わず読み入ってしまうニュースを見つけました。
ネアンデルタール人(旧人)が約5万9千年前に、小型の石器を使って虫歯を治療したとみられる化石が発見されたというのです。
ロシアなどの研究チームが米科学誌に発表したもので、本格的な歯科治療としては世界最古の事例とされています。
石器で歯を削っていた|5万9千年前の歯科治療

麻酔なしで治療していた可能性
発見された歯は下顎の奥歯で、歯髄に届くほどの深い穴が開いていました。
偶然できた損傷ではなく、意図的に治療を施した痕跡だとチームは分析しています。
研究チームは、「治療には痛みの原因を診断し、腐敗した組織を除去することで痛みが軽減することを理解し、適切な石器を選ぶ必要があった」と指摘しています。
歯科医師として読んで、まず思ったのは、麻酔はどうしていたのか。
ここで少し専門的な話をさせてください。
虫歯が進行して神経(歯髄)まで達すると、最初は「歯髄炎」という状態になります。
これが、あの激烈な歯の痛みの正体です。
ところがさらに放置して神経が死んでしまうと、「感染根管」という状態になり、不思議なことに一時的に痛みが和らぐことがあります。
神経が死んでいるので、刺激を感じなくなるのです。
つまり、もしネアンデルタール人が感染根管の状態になるまで待っていたなら、石器で削っても痛みは少なかったかもしれません。麻酔なしでも治療できた可能性があります。
痛みと向き合いながら治療していたのかもしれない
しかしそこには、もう一つの残酷な現実があります。
感染根管になるまで待つということは、それまでの歯髄炎の猛烈な痛みに耐え続けたということです。
神経が生きている歯髄炎の状態で石器をカンカン当てられたら、それこそ気絶するほどの激痛だったはずです。
感染根管になるまで痛みに耐えて、その後に石器で治療を受けたのか。それとも歯髄炎のまま治療に臨んだのか。
私なりの考察ですが、おそらく
「感染根管になって一旦痛みが落ち着いたタイミング」で治療を受けたのではないかと思っています。
歯髄炎の激痛に耐え、神経が死んで痛みがひと段落したその瞬間「今だ」と石器を手に取った仲間がいた。そう考えると、辻褄が合います。
感染根管は放置すれば、今度は別の痛み(根尖病巣による鈍い痛みや腫れ)に移行しますから、その前に処置をしたのでしょう。
麻酔のない時代なりの、実に理にかなったタイミングだったのかもしれません。
5万9千年前のネアンデルタール人も、痛みと向き合いながら知恵を絞っていたのです。
→【おすすめ院長ブログ】2500万年前のカモノハシには歯があった|歯の進化から考える、歯を大切にする理由
「抜かずに治す」という発想が、すでに存在していた
もう一つ、歯科医師として興味深かったのが治療の内容です。
歯を抜くのではなく、根管(歯髄)を開けるという処置を行っていたとみられています。
現代の根管治療(いわゆる神経の治療)に通じる発想が、すでにこの時代に存在していたのです。
石器しかない時代に、歯を抜くという選択ではなく「歯を残そうとした」。
そこに、なんとも言えない優しさを感じます。
歯を大切にしたいという気持ちは、5万9千年前から変わらないのかもしれません。
ちなみに、治療を受けたネアンデルタール人は、その後も長期間生存したとみられるそうです。
治療は成功したのでしょう。石器で。
現代の歯科治療は、ここまで進化した

5万9千年前と比べると、現代の歯科治療は別世界です。麻酔があるので、治療中の痛みはほとんどありません。精密な器具によって、歯への負担も最小限に抑えられています。
また、レントゲンや各種検査によって、目に見えない部分まで確認しながら治療できるようになりました。根管治療も、より精度高く歯を残せる時代になっています。
「歯医者は怖い」「痛いから行きたくない」というイメージをお持ちの方もいると思います。
その気持ちはよくわかります。
でも、石器で無麻酔治療を受けていた時代と比べれば、現代の歯科治療はずっと安心して受けていただけるものになっています。どうか、安心してお越しください。
→【おすすめブログ】歯の痛みはどこまでが治療?判断の基準について
5万9千年分の進化を、今の歯科治療に
5万9千年前のネアンデルタール人も、歯の痛みと戦っていました。
時代は変わっても、「歯が痛い」「できれば歯を残したい」という気持ちは、人類共通なのかもしれません。現代の歯科医療は、長い年月をかけて大きく進化してきました。
5万9千年分の進化の恩恵を、ぜひ活かしてください😊
三重県伊賀市の歯医者、峰歯科・矯正歯科クリニックまでどうぞお気軽にご相談ください。